実験系研究

 リチウムイオン電池の材料研究(実験系)

研究背景Coin2
 リチウムイオン電池は高エネルギー密度で特徴づけられる電気エネルギー貯蔵デバイスです。つまり、大量の電気エネルギーを「より軽く」、「より小さい」電池の中に蓄えることができ、何度も充放電することができるデバイスです
この電池は1991年に実用化されて以来、携帯電話・ノートパソコン等の携帯機器電源として急速に市場を拡大し、現在日本での総生産額は3,800億円(2008年)にも及んでいます。現在はポータブル機器電源として広く普及しましたが、今後は大型化することで環境とエネルギー問題に関連する市場への展開が期待できます。具体的には、夜間電力蓄電、自然エネルギーの地産地消と系統連携(スマートグリッド社会)、電気自動車用電源などへの応用が期待されており、環境・エネルギー問題を解決するキーデバイスとして期待されています。しかしながら、リチウムイオン電池の大型化には、現行の電池のエネルギー密度の更なる向上に加えて、安全性、高速充放電特性、そして一層の長寿命化などの電気化学特性について格段の向上が求められており、更なる材料開発が必要です。

われわれは、実験を通してリチウムイオン電池の電気化学反応機構を理解するための基礎研究を行うと同時に、全固体化や性能向上を目指した応用研究も展開しています。(計算系研究も行っています)

【研究例】
電極反応の素過程解析
全固体リチウムポリマー電池の開発
反応エントロピー測定
電極材料の結晶・電子構造解析
固体電解質のイオン伝導性に関する研究

電極反応の素過程解析

リチウムイオン電池の電極(セラミックス材料)と電解質(有機電解液)の間(界面)では、充放電中にリチウムイオンの交換反応が行われている。われわれは、この界面でのイオン交換反応機構を原子スケールで理解することを模索している。

このような研究で得られた成果は、交換反応による内部抵抗(界面抵抗)を低下させて高出力化(高速充放電できる能力)する技術を確立することに貢献すると考えている。

例 ACインピーダンス法によるアドアトム(adatom)理論の検証 (参考文献 2003

リチウムイオン電池の電極反応では、Bruceらが提案したadatomモデル(P. G. Bruce et. al., J. Electroanal. Chem., 322, 93 (1992))で説明できることをACインピーダンス測定により明らかにした。具体的には、電極反応では①リチウムイオンの脱溶媒和と④電極表面インターカレーションの二つのが主たる界面抵抗になることを確認した。
これまで、均一系の電気化学反応における電荷移動反応は、電極から溶液中(電気二重層)のイオンに電子が飛び移る過程(電荷移動・電子移動)が素過程であるとして、Butler-Volmer式が提案されてきた。しかし、リチウムイオン電池の場合、電子移動は電極固体内で完結する(電極内の遷移金属を酸化還元する)ため、均一系電極反応に比べて小さいと考えられる。そこで溶媒種を変更したり、温度を制御した条件下でACインピーダンスを測定した結果、電極反応の律速過程がリチウムイオンの脱溶媒和と電極表面のリチウムイオンが内部にインターカレーションしていく過程であることを見出した。AdAtom

例 ACインピーダンス法と第一原理計算によるアドアトム(adatom)理論の検証2 (参考文献 2014

リチウムイオン電池の電極反応の素過程として、(1) 脱溶媒和と (2) Lattice Incorporation(格子内挿入)の2つの過程が関与することを上記の研究例で提案したが、物理的なイメージが明確な脱溶媒和過程に比べて、Lattice incorporation過程はイメージが曖昧であり、材料設計上の課題である。

そこで、第一原理計算による表面リチウム脱挿入計算の結果と、電位制御したACインピーダンス測定を駆使することで、Lattice incorporation過程が表面におけるリチウムの欠陥生成エネルギーがバルクの生成エネルギーに比べて大きく変化していることにより、ポテンシャル障壁が発生していることを明らかにした。このモデルでは、従来2次元的な平面として扱ってきた電極表面のイメージとは異なり、ナノメートルスケールの厚みを有する表面相の存在を想定している。このような考え方に基づけば、ナノ粒子正極材料で電位曲線が変化することなどを説明することも可能である。

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★例 ACインピーダンス法による合金系負極の反応機構検証 (参考文献 2003
合金系負極Cu2Sbのリチウム挿入反応について、その反応速度論をACインピーダンス法と熱測定によって検証を行った。その結果、反応初期の二相共存反応では、核生成と成長過程が律速となることを明らかにできた。この研究成果は、合金負極に特有な初期不可逆反応のメカニズム解明に貢献するとともに、二相共存反応における反応ダイナミクスを核生成・成長過程の観点から説明するモデルを提供することにつながると考えている。Nucleation

★例 二相共存反応系における核生成・成長の反応機構(参考文献 2007
そこで、合金系負極Cu2Sbのリチウム挿入反応について、その反応速度論をACインピーダンス法と熱測定によって検証を行った。その結果、反応初期の二相共存反応では、核生成と成長過程が律速となることを明らかにできた。この研究成果は、合金負極に特有な初期不可逆反応のメカニズム解明に貢献するとともに、二相共存反応における反応ダイナミクスを核生成・成長過程の観点から説明するモデルを提供することにつながると考えている。

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★例 ラプラス変換インピーダンス法による充電と放電反応の分離(参考文献 2016
従来のインピーダンス法では充電反応と放電反応を分離することが出来ない。そこで直流電流パルスの電圧応答をラプラス変換しインピーダンススペクトルを得る方法(Takanoら、J. Electrochem. Soc. 147, 922 (2000))を用いることで、充電と放電のインピーダンスを分離した。また、この方法により電流密度に対する過電圧変化も計測し、バトラーボルマー型の過電圧プロファイルを得ることに成功した。高電流密度下では、充電と放電でインピーダンススペクトルに大きな差が見られることを確認した。
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全固体リチウムポリマー電池の開発全固体リチウムポリマー電池の開発

既存のリチウムイオン電池は可燃性・自己燃焼性の有機溶媒を用いているために安全性に対する致命的な不安を抱えている。そこで、有機電解質を、難燃性のリチウムイオン導電性ポリマー電解質に置き換え、リチウムイオン電池を全固体化することで高い安全性が期待されるリチウムポリマー電池の開発を実施している。
このような全固体リチウムポリマー電池は、更にラミネート技術を併用することで、フレキシブルシート化やスタック化も可能であり、軽量・大容量かつ放熱特性に優れた電池の作成が可能であると考えられる。したがって、これまで携帯用途が中心であったリチウムイオン電池を大型化する際に、全固体ポリマー電池は有利であると考えている。大型電池は、再生可能エネルギーを既存電力網で活用させるための系統連携用途や家庭設置用途のような分散型電源に展開することが可能であり、環境・エネルギー問題に貢献できると考えられる。更に出力が改善すればHEV/EV車載電池としての使用も期待される。 (参考文献 2009, 2010)

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★例 全固体リチウムポリマー電池の製作と電気化学特性評価 (参考文献 2010
ポリマー電解質を用いた全固体電池のコンセプト自体は古く、電池が商業化された1990年代にはポリマー電解質の研究が盛んに行われている(最初のリチウム伝導性ポリマー電解質の報告は1975年)。これまでの研究では固体電解質のイオン導電性の低さが心配されてきたために、電解質のイオン導電性向上を目指した研究が盛んになされてきた。これらの研究成果によって、ポリマー電解質に限れば、今日ではポリエチレンオキシド系高分子にリチウム塩を溶かしたような電解質で、室温において10-3~10-4 S/cm程度の高いイオン導電性を有する材料が開発されている。
しかし、ポリマー電解質のイオン導電性最適化が進められている一方で、システムとしての全固体電池(つまり、電極と電解質を組み合わせて電池を構成した系)について、系統的に評価、研究している研究グループは各国で数箇所程度と少なく、電池組み立てのための知識・ノウハウは不足している。われわれは、正極にLiFePO4, 負極にリチウム金属を用いた電池の製作法を検討し、室温で10-4 S/cm程度の伝導性を持った固体電解質を用いた全固体電池でも、200サイクル(放電5時間/サイクル、半年程度)を超える安定した電池の製作法を確立した。

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★例 リチウム伝導性ポリマー電解質のリチウム輸送特性 (参考文献 2009
ポリマー電解質のイオン導電性を高めるために、可塑剤と呼ばれるオリゴマーを電解質に添加する手法がある。熱特性にすぐれた13族アルコキシドを可塑剤にしたポリマー電解質はACインピーダンス法によって伝導度が1桁程度向上することが確認されている。しかしながら、ポリマー電解質中のイオン伝導度は、リチウムイオンだけではなくアニオンも伝導に関与するため、従来のACインピーダンス法でイオン伝導度を調べてもリチウムイオンの正味の伝導度を得ることは難しい。 われわれは、ポリマー中の粒子の拡散現象をACインピーダンス法と磁場勾配NMR法で調べることで、リチウムイオンとアニオンの寄与を分離し、輸率および塩解離度を算出した。その結果、13族アルコキシドでは、全イオン導電性の向上に加えて塩解離度およびリチウムイオン輸率が向上することを明らかにした。これは、13族アルコキシドのルイス酸性がアニオンと相互作用するためだと考えられる。

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★例 全固体型リチウムポリマー電池のサイクル劣化解析 (参考文献 2009 2010.)
大型電池を志向した全固体型リチウムポリマー電池を実用化するためには、高いサイクル耐久性(寿命特性)が必要である。しかし、これまでに作成した電池は、一定期間の安定充放電した後、急速に劣化していくという現象が観測された。われわれは、電気化学測定、電子顕微鏡観察、NMR測定などの諸技術を併用して、電極|電解質界面の反応が劣化と深く相関していることを見出した。これは、全固体電池の反応が液系電解質とは異なり固体|固体界面でのイオン交換になることと関連しているため、本研究の成果によって全固体イオニクス素子に共通した材料設計の指針を得ることができると考えている。

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反応エントロピー測定

相安定性と反応エントロピー測定(基礎研究)

リチウムイオン電池電極材料の充放電反応は、ホスト構造のトポロジー変化なしにリチウムイオンが挿入脱離するインターカレーション反応で進行する。比較的単純に見える反応機構であるが、多くの電極材料では充放電深度によって様々な相転移を示す。またこのような相転移は、経験的に電池性能と深く関連していることも知られている。 相転移のメカニズムは結晶中でのリチウムイオンと空孔サイトの配列に関連していると考えられてきたが、リチウムイオンの配列をX線回折などの方法で調べることが困難であった。そこで、われわれはリチウムと空孔の配置の自由度に由来するエントロピーに注目し、電気化学的実験(および熱測定)で反応エントロピーを測定している。更に、本研究は第一原理計算やモンテカルロ法による計算研究とも結びつけて実施することで、いくつかの電極材料について相転移メカニズムを原子スケールから説明することに成功している。

★研究例 ペロブスカイト型La1/3NbO3材料へのリチウム挿入反応と反応エントロピー測定 (2005)
複数のリチウムイオン受容サイトを持つペロブスカイト型La1/3NbO3材料をモデル材料として、充放電深度に伴うリチウムイオンの分布を反応エントロピー測定によって検討した。得られた結果から、リチウムイオンの格子内配列は静電ポテンシャルによって支配されていることを明らかにすることができた。
また、反応エントロピー測定の方法そのものについても検討を行った。電気化学的に反応エントロピーを測定する手法は温度摂動による緩和が十分速いと仮定しているが、一方熱測定による方法ではリチウム組成摂動による緩和が十分速いと仮定しており、両者は相補的な立場にある測定法である。本研究では、電気化学的測定法も熱的測定法でも測定誤差範囲内に一致することを確かめ、反応エントロピー測定結果の妥当性を確認することができた。

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★研究例 スピネル型LiMn2O4系材料における秩序・無秩序相転移機構 (2006)
スピネル系正極材料LixMn2O4は、四面体8aサイトを占有するLiがトポケミカルに挿入脱離することが知られている。Liが半分脱離したLi0.5Mn2O4なる組成で電位が大きく変化することから、結晶中でLiと空孔が交互に整列する新たな相の出現が提案されている。一方で、MnをMg, CoやCrなど+2, +3価となるカチオンで一部置換すると、相転移に由来する電位変化が小さくなり、充放電反応のサイクル寿命特性が向上することが知られている。したがって、相転移反応機構を解明することは電池特性を向上するために重要である。
本研究では、無置換体および置換スピネルの反応エントロピーを詳しく調べ、同時にモンテカルロ計算を実施することで相転移機構の詳細を調べた。その結果、置換イオンは、局所的にLiを引き付けることで、Liと空孔の交互規則整列に影響を与え、相転移が抑制されることをを示した。この傾向は、置換イオンのイオン半径による効果よりもイオンの酸化数に支配されるため、静電相互作用が規則配列に影響を与えることが明らかになった。 (計算について)

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★研究例 合金系負極材料の相転移機構 (参考文献 2007 2008)
 合金負極Cu2Sbのリチウム挿入過程における相安定性を、1)X線回折測定、2)カロリメトリーによるエントロピー計測、3)第一原理法+モンテカルロ法により評価した。その結果、未知の2つの超格子の構造決定を含む、Li-Cu-Sb系材料の三元相図の作成に成功した。また、シミュレーションと実験による熱挙動の一致性なども示すことができた。

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電極材料の結晶・電子構造解析電極材料の結晶・電子構造解析

電極材料の結晶・電子構造解析(基礎研究)

リチウムイオン電池の電気化学反応とその特性を理解するための第一歩は、材料の結晶構造と電子構造の調査である。遠回りのようであるが、精度の高い構造データの蓄積は、もっとも優れた材料を設計する手がかりを与えてくれる。われわれは、X線回折測定、X線吸収分光法などの手法を活用して、平均的結晶構造、局所結晶構造、組成、酸化状態、化学結合などの知見を材料から抽出し、材料の電気化学特性と対比して議論をしている。

★研究例 オリビン型LiCoPO4材料の結晶構造、電子構造と充放電特性

オリビン型LiCoPO4は平均動作電位が4.8V程度と既存のLiCoO2に比べて1V程度高く、次世代の高エネルギー密度型電極材料として注目されている。本研究ではLiイオンを挿入・脱離する間の結晶構造変化と電子構造変化をX線吸収分光法(XAFS)により解析を行った。また結果を第一原理計算と組み合わせることで、実験と計算の結果の対比も行っている。(参考文献 2005, 2004)
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★研究例 ペロブスカイト型La1/3NbO3への電気化学的リチウム挿入反応と局所構造変化の観察
ペロブスカイト型酸化物La1/3NbO3はリチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な電極材料になる。実用的には重金属を用いているため容量密度を稼ぐことが困難であるが、その充放電サイクル特性は3V-1Vのカットオフ範囲で極めて安定している。このような安定したサイクル特性の原因を究明するために、充放電過程におけるEXAFS測定・解析を行った。(参考文献 2003, 2005)

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★研究例 ペロブスカイト型La1/3NbO3への電気化学的リチウム挿入反応と局所構造変化の観察
上述したペロブスカイト型酸化物La1/3NbO3は、良好なサイクル特性以外にも、ペロブスカイトAサイトにリチウムイオンを吸蔵・放出する方法が2通り有る点でユニークである。一つは、電気化学的に(つまり通常の充放電反応で)リチウム挿入をさせる方法であり、もう一つはLa3+をLi+で置換する方法である。前者は遷移金属Nbの酸化還元反応を伴うが、後者は一定である。両者におけるリチウム挿入反応に対する電子状態変化を軟X線吸収分光法のスペクトルと第一原理計算でそれぞれ比較することで、酸素周辺で生起する電荷移動反応の理解を目指した。(2003 2004 2005)

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固体電解質のイオン伝導性に関する研究固体電解質のイオン伝導性に関する研究

固体電解質のイオン伝導性に関する研究

酸化物中のイオンの拡散挙動を理解することは、単に固体電解質特性を向上するためだけではなく、センサーやデミキシングのような固体イオニクス材料の設計、セラミックスの固相反応・焼結の理解など様々な分野に適用が可能である。このような広い分野横断的な材料を扱うために、交流インピーダンス法によるイオン導電性測定や結晶構造の精密解析などの基礎的研究成果を着実に積み重ねていくことで理解を深めている。

★研究例 ペロブスカイト型リチウムイオン導電性酸化物

リチウムイオン導電性酸化物として、もっとも高いイオン導電性を示すペロブスカイト型酸化物材料のイオン導電性を結晶構造解析の観点から研究している。たとえば、一般には格子サイズが大きくなればイオン導電性も高くなると考えられるが、時としてそのような傾向に一致しない材料も存在する。このような特異な挙動を示す材料の局所構造をEXAFSで調べその相関を調べた。また、イオン導電率の温度依存性は一般にはアレニウス則に従うが、特に相転移など無くても高温部でアレニウス直線に屈曲が観測されるケースが存在する。このような現象についても中性子回折測定で検討などを行っている。最近では実験だけではなく計算化学によるアプローチも併用して研究を展開している(参考文献2002-1, 2002-2, 2004)

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