全固体リチウムポリマー電池の開発

既存のリチウムイオン電池は可燃性・自己燃焼性の有機溶媒を用いているために安全性に対する致命的な不安を抱えている。そこで、有機電解質を、難燃性のリチウムイオン導電性ポリマー電解質に置き換え、リチウムイオン電池を全固体化することで高い安全性が期待されるリチウムポリマー電池の開発を実施している。
このような全固体リチウムポリマー電池は、更にラミネート技術を併用することで、フレキシブルシート化やスタック化も可能であり、軽量・大容量かつ放熱特性に優れた電池の作成が可能であると考えられる。したがって、これまで携帯用途が中心であったリチウムイオン電池を大型化する際に、全固体ポリマー電池は有利であると考えている。大型電池は、再生可能エネルギーを既存電力網で活用させるための系統連携用途や家庭設置用途のような分散型電源に展開することが可能であり、環境・エネルギー問題に貢献できると考えられる。更に出力が改善すればHEV/EV車載電池としての使用も期待される。 (参考文献 2009, 2010)

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★例 全固体リチウムポリマー電池の製作と電気化学特性評価 (参考文献 2010
ポリマー電解質を用いた全固体電池のコンセプト自体は古く、電池が商業化された1990年代にはポリマー電解質の研究が盛んに行われている(最初のリチウム伝導性ポリマー電解質の報告は1975年)。これまでの研究では固体電解質のイオン導電性の低さが心配されてきたために、電解質のイオン導電性向上を目指した研究が盛んになされてきた。これらの研究成果によって、ポリマー電解質に限れば、今日ではポリエチレンオキシド系高分子にリチウム塩を溶かしたような電解質で、室温において10-3~10-4 S/cm程度の高いイオン導電性を有する材料が開発されている。
しかし、ポリマー電解質のイオン導電性最適化が進められている一方で、システムとしての全固体電池(つまり、電極と電解質を組み合わせて電池を構成した系)について、系統的に評価、研究している研究グループは各国で数箇所程度と少なく、電池組み立てのための知識・ノウハウは不足している。われわれは、正極にLiFePO4, 負極にリチウム金属を用いた電池の製作法を検討し、室温で10-4 S/cm程度の伝導性を持った固体電解質を用いた全固体電池でも、200サイクル(放電5時間/サイクル、半年程度)を超える安定した電池の製作法を確立した。

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★例 リチウム伝導性ポリマー電解質のリチウム輸送特性 (参考文献 2009
ポリマー電解質のイオン導電性を高めるために、可塑剤と呼ばれるオリゴマーを電解質に添加する手法がある。熱特性にすぐれた13族アルコキシドを可塑剤にしたポリマー電解質はACインピーダンス法によって伝導度が1桁程度向上することが確認されている。しかしながら、ポリマー電解質中のイオン伝導度は、リチウムイオンだけではなくアニオンも伝導に関与するため、従来のACインピーダンス法でイオン伝導度を調べてもリチウムイオンの正味の伝導度を得ることは難しい。 われわれは、ポリマー中の粒子の拡散現象をACインピーダンス法と磁場勾配NMR法で調べることで、リチウムイオンとアニオンの寄与を分離し、輸率および塩解離度を算出した。その結果、13族アルコキシドでは、全イオン導電性の向上に加えて塩解離度およびリチウムイオン輸率が向上することを明らかにした。これは、13族アルコキシドのルイス酸性がアニオンと相互作用するためだと考えられる。

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★例 全固体型リチウムポリマー電池のサイクル劣化解析 (参考文献 2009 2010.)
大型電池を志向した全固体型リチウムポリマー電池を実用化するためには、高いサイクル耐久性(寿命特性)が必要である。しかし、これまでに作成した電池は、一定期間の安定充放電した後、急速に劣化していくという現象が観測された。われわれは、電気化学測定、電子顕微鏡観察、NMR測定などの諸技術を併用して、電極|電解質界面の反応が劣化と深く相関していることを見出した。これは、全固体電池の反応が液系電解質とは異なり固体|固体界面でのイオン交換になることと関連しているため、本研究の成果によって全固体イオニクス素子に共通した材料設計の指針を得ることができると考えている。

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