一般的な第一原理バンド計算では、絶対零度、無加圧下の材料の様子しか計算できないため、材料機能と深く関連する有限温度・圧力下での相転移現象などを予測することが難しかった。われわれは、配置のエントロピー、振動のエンタルピーとエントロピーの計算、また機械的特性での材料の電子エネルギーを第一原理計算から導き統計力学理論などと結びつけることで、有限温度や有限圧力下での材料の相安定性について定量的視点から解析することを実践している。
★例 Li-Cu-Sb系合金の三元系相図作成 (参考文献 2007, 2008)
合金系負極材料の電池反応を理解するためには、多元系になるほど複雑な相平衡関係を理解する必要がある。しかし、電池反応中間体は非常に外気に対して不安定であるため、従来のX線回折法などを用いて相図を製作するのは困難である。そこで、われわれは三元系Li-Cu-Sb系合金材料の相図を第一原理計算によって作成し、更に安定したサイクル特性を示すLiCuSb-Li2CuSb-Li3Sb構造の相関係を明らかにした。
★例 LiNbO3型結晶構造を持つZnSnO3材料の誘電特性2 (参考文献 2010)
Zn2+-Sn4+-O2-三元系材料について、それぞれの相の機械的特性を調べることで、圧力に対する材料の電子エネルギー変化を調べた。この結果、最近報告された極性酸化物材料ZnSnO3が高圧で安定になることを明らかにした。
★例 LiNbO3型結晶構造を持つZnTiO3材料の誘電特性 (参考文献 2014)
新たに高圧反応によって合成された新規誘電体材料ZnTiO3の相安定性を、フォノン(格子振動)を考慮した第一原理計算を適用することで決定し、ZnTiO3の合成法を提案しました。
★例 スピネル型LiMn2O4系材料の相平衡と反応エントロピー(参考文献 2006)
スピネル型LiMn2O4はリチウムイオン電池正極材料として知られているが、充放電反応をするといくつかの相転移が現れる。このような相転移は充放電劣化と深く関係していると考えられている。原子レベルでの相転移メカニズムに関する詳細な知見を得るために、反応エントロピー測定を実施するとともに、実験パラメーターを用いないモンテカルロ計算(クーロン相互作用を使用)を実施した。その結果、リチウムと空孔の規則配列が相転移の際に発生しており、この規則配列は不純物ドープをすることで抑制できることを示した。