研究活動

■ 現在の研究概要


現在は主にリチウムイオン電池などの蓄電池材料研究を中心に行っています。下の図は、私たちのリチウムイオン電池の研究方向を図示化したものです。大きく2つの研究軸で構成されています。縦軸は、電池を構成する要素材料(正極、負極、電解質)を個々に最適化しようとする方向(マテリアル設計)と、それぞれの材料を組み合わせて電池としてシステム最適化を目指す方向(デバイス設計)をあらわしています。一方、横軸は研究手法の軸であり実験的方法と計算的方法を考えています。これらの研究軸を意識して、相補的に研究を進めていくことで蓄電池材料開発に貢献しようと考えています。

最近は、デバイス設計の観点で「全固体デバイス構築」と「界面反応機構」に注目しています。また、マテリアル設計の観点では「固体内イオン拡散」の基礎的課題から「計算先行型の新材料発見」などをテーマにしています。また、これまでの蓄電池研究の成果をもとに、固体酸化物型燃料電池(SOFC)関連材料誘電体、センサー材料などの研究にも展開した実績があります。

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■ リチウムイオン電池材料開発


リチウムイオン電池は、携帯電話やノートパソコンなどの小型・軽量な携帯機器の普及に伴い、電池容量の向上が強く求められるようになっています。さらに、将来的なエネルギー・環境問題の解決に向けて、電気自動車や夜間の余剰電力を活用した蓄電による負荷平準化など、大型電池の開発も期待されています。

現在では、「全固体電池」「ナトリウムイオン電池」「マグネシウムイオン電池」など、ポスト・リチウムイオン電池に向けた研究が活発に進められています。一方で、リチウムイオン電池は充放電反応の理論モデル化が比較的容易なため、基礎研究の面でも引き続き重要な対象となっています。

私たちは、電極反応やイオン伝導といった基礎現象を深く理解し、その知見をもとにさまざまな研究者や産業界と連携しながら、蓄電池材料に関わる課題の解決を目指しています。そして、こうした基礎研究を応用に結びつけ、有用な「材料設計・デバイス設計」へと展開していくことを目指しています。

 

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【参考:電池反応】

電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置であり、放電時には正極で還元反応、負極で酸化反応が起こります。また、充放電を繰り返せる二次電池では、充電時にこれらの反応が逆方向に進行します。リチウム二次電池は、リチウムイオンの移動を利用する電池であり、「インターカレーション反応」と呼ばれる、結晶構造を維持したままリチウムイオンを出し入れする反応を基本としています。具体的には、充電時には酸化反応を伴って、図1の左側に示す酸化物系正極からリチウムイオンが引き抜かれ、電解液を介して右側の黒鉛負極へと移動し、還元反応により負極に取り込まれます。放電時にはこの反応が逆方向に進み、リチウムイオンは負極から正極へと移動します。

 

■ 計算化学による無機固体材料の開発


第一原理計算やニューラルネットワーク力場計算を活用し、機能性材料の組成・構造・物性の関係性解明や新材料探索のための研究を進めています。研究対象として、上記に例示した蓄電池材料にとどまらず、固体酸化物型燃料電池やセンサーなどのイオン伝導体・電子伝導体、誘電性・絶縁性材料などを対象にしています。

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【参考:第一原理計算】
第一原理計算とは「既存の実験結果を含めて経験的パラメーター等を一切用いない」計算法の総称である。従って第一原理計算から得られた結果は演繹的であり、計算結果を実験結果等と比較評価することで原理や理論に含まれる誤謬や仮定によって生じる適用限界を検証することが出来る。第一原理計算には様々な種類があるが、特に断りがない場合には電子状態計算を指すことが多く、平たく言えば任意の系のシュレディンガー方程式を解くことに相当する。現実には解析解を得ることが出来ないため様々な近似法を用いている。例えば強い電子相関などは近似法の適用外となることもあり、現在でも新たな近似手法の開発が精力的行われている。第一原理計算の特徴として、現実を再現する高い精度があげられ、実験では困難な現象の解析などに有力な方法として、様々な研究がなされてきた。。

 

【参考:ニューラルネットワーク力場計算】
上述の第一原理計算法は非常に高い計算精度を誇る一方で、膨大な計算資源を必要とするため、たとえ最新鋭のスーパーコンピューターを用いても、適用可能なモデルのサイズや計算時間には大きな制約がありました。しかし、2020年頃からは、ニューラルネットワーク(AIモデル・深層学習モデル)を活用して、第一原理計算の結果を極めて高速に再現する新たな計算手法が登場し、実用化が進んでいます。これにより、従来の第一原理計算では困難だった大規模なモデルや大量のデータに対しても、高速かつ高精度なシミュレーション(ハイスループット計算)が可能となり、材料設計や新たな知見の獲得における有力な手法として注目を集めています。

 

■ 共同研究など


産学を問わず国内外の研究者とも広く共同研究を行い、技術や知識の交流をしています。

【共同研究例(成果が論文等で公開されたもの 2009年度研究室設立以降)】
・ 首都大学東京: PCCP,  (2012), Chem. Mater (2013), RSC Advances (2019) 他
・ アーヘン工科大学(独): PCCP, 14, 6079 (2012), J. Phys. Chem. C (2024) 他
・ 東京工業大学: Energy and Environ. Sci (2010)  他
・ 学習院大学: Adv. Mater. (2010), J. Am. Chem. Soc. (2014)
・ トヨタ自動車: J. Ceram. Soc. Jpn. 117, 911 (2009), Sci. Rep. (2018), Chem. Record. (2019)
・ 東京大学: Ener. Env. Sci. (2019), Nat. Energy (2023)
・ 東京理科大学: J. Phys. Chem. C  (2014), Adv. Funct. Mater (), J. Mater. Chem. A (2024)
・ 東京電機大学 / 横浜国立大学: PNAS (2015), Nat. Commun. (2016), ACS Cent. Sci. (2022) 他
・ 信州大学: J. Phys. Chem. C, (2015), Sci. Rep. (2018)
・ 東亞合成: Mater. Adv. (2022), Next Mat.(2025)
・ 芝浦電子: J. Phys. Chem. C (2023)
・ インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国): PCCP (2013),  Chem. Mater. (2015)
・ シンガポール国立大学/明志科技大学(台湾): Chem. Mater (2017),  J. Phys. Chem. C (2023)他
・ ブリュッセル自由大学(ベルギー): J. Phys. Chem. C (2023), ChemSusChem (2023)

 

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英国 インペリアル・カレッジ
Prof. Grimes, Prof. Kilner 先生の研究室に学生(椎葉寛将君)が10か月滞在
固体酸化物型燃料電池の研究に従事(2010-2011年度)

 

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ドイツ アーヘン工科大学
Prof. Marin先生の研究室とは2006年度以来継続的に共同研究を実施
固体酸化物型燃料電池材料の研究